若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 カナトが伊瀬とスポーツジムで汗を流しているあいだに船内のショッピングモールにある台湾茶房で植物の種子からつくるゼリー、愛玉子(オーギョーチー)を鉄観音烏龍茶とともにいただいたマツリカは、浩宇とその両親――(ワン)氏と乗客らしいひとときを過ごした。彼らは那覇で途中下船し、正月を故郷の台湾で過ごす予定なのだという。パッケージングされたクルーズの場合、途中下船することは難しいが、今回のように長期間のクルーズだと途中下船が可能になることがある。どうやら王氏も鳥海海運のアメリカ現地法人と取引している企業の偉いひとのようだから、事前にはなしをつけていたものと思われる。

「鳥海のアメリカ法人と取引している台湾の企業……? 親父なら知ってるかもな」
「オーナーである若き海運王が乗船していることも知っていたみたいです。あたしが彼の専属コンシェルジュだって伝えたらそれで息子を素早く保護できたのねって納得してくれました」
< 163 / 298 >

この作品をシェア

pagetop