若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 はぁ、と乾いた笑みを浮かべながら今日も彼が選択したワンピースに袖を通す。本日昼前にはふたつめの寄港地であるニュージーランド、アイランズ港へ到着する。オークランド、ウェリントン、ダニーデンなどを一週間ほど楽しんだ後、ハゴロモはタスマン海へのクルージングにうつり、舞台をオーストラリア、インドネシアへとさながら花の蜜を求めてさまよう蝶のように移っていく。
 その頃にはクリスマスを迎え、年越しまでのカウントダウンにひとびとは胸を馳せるのだろう。予定通りにことが進めばハゴロモが沖縄の那覇に寄港する日がちょうど元日にあたる計算になる。
 すこしずつ、タイムリミットが近づいていく。

 ――このクルーズが終わったら……自分たちはどうなってしまうのだろう?

 着替えを終えたマツリカを確認したカナトは、朝の挨拶だよと軽く額と唇にキスをする。
 昨晩の余韻がじんわりと全身を駆け抜けていく。キスひとつで淫らな反応をしてしまう自分に思わずマツリカは頬を赤らめた。
 そんな彼女の姿に喜びながら、カナトは新たな提案をする。
< 172 / 298 >

この作品をシェア

pagetop