若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 事前に手渡された書類には「中谷真理香」と記されていた。……カナトが探しているのは「長谷マツリーカ」である。名前の響きと年代だけで見合いの相手に選ばれた彼女は鳥海海運同様、国内の海運四天王のひとつ、横須賀汽船の令嬢だ。すでに生まれた頃から婚約者が定められていた彼女は、カナトの父に理由も知らされないまま呼び出された被害者であるはずなのに、こちらの事情を汲んで、カナトの初恋を真摯になってきいてくれたのだ。そのうえ――

「それより、若き海運王の心を射止めた女性にわたし、心当たりがあるんですけど……」
「え」
「ニューヨークで、コンシェルジュをされていたマツリカ・キザキという女性とお会いしたんです。彼女の旧姓がたしかナガタニ、って」

 中谷の言葉に、カナトは絶句する。
 目の前が真っ白になる。
 初恋の約束をしたはずの彼女は、すでに既婚者になっていた――……?
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