若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 伊瀬がカナトに伝えた真実をマツリカに説明すると、彼女は泣き笑いの表情を浮かべて頷いた。

「……なあんだ。拍子抜けしちゃった」
「けど、怒っていた貴女の母親を説得させることを怠ってお金で無理矢理解決したのは事実だ。申し訳ないと思う」
「カナトが謝る必要はないよ。ちょっとしたミスって、誰にでも起こることじゃない」
「プロとして失格だ。マツリカだってそう思わないか?」

 しょんぼりしてしまったカナトを慰めるように、マツリカは彼の黒髪に手を伸ばす。

「あのね、カナト。航海士だったバパはいつも海にでるとき、死んでもおかしくないって覚悟してたって西島さんが言ってたよ。あたしが父親の死の真相を知りたいって彼に伝えたときも、笑わないで訊いてくれたの。そのうえで、今回のハゴロモクルーズのコンシェルジュに選抜してくれたの」
「西島さん?」
「鳥海本社の陸上職を経て退職後、アメリカ法人からBPWのCOOになったあたしの上司」
「そうだったのか……あはは、はは!」
「カナト?」
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