若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 金目のものを狙った犯行ではなく、あくまでマツリカだけを狙ったものだと瀬尾は言いたいらしい。

「低い声が奥から聞こえたので仲間が待機していたものと……裏口から逃げたものと思われます。幸い、マツリカ嬢の制服につけておいたGPSには気づいてなさそうだったのですぐに追いかけられると思います」
「それならいい。だが、裏口から出られるのか? さっき入ろうとしたときには鍵がかけられていたが?」

 違和感に気づいたカナトが声をあげれば、尾田がつまらなそうに説明する。

「乗船口と違い、荷物搬入がメインの裏口の鍵は管理が甘い。スタッフルームに行けば誰でも調達可能だ。それに、外からかけられた鍵も内側からなら容易にはずせるようになってます」
「そ、そうか」
「就航中は誰も気にもかけなかったが、まさか犯罪に利用されるとはねぇ」
「尾田、なにか心当たりでもあるのか? 王氏も那覇を発つ際に忠告してくれたが」

 城崎浬の動向に疑念を抱いていた王氏は、カナトに彼を止めるよう懇願してきた。会社をおおきくするために彼は台湾マフィアと通じ、よからぬことをしているようだから、と。

「キャッスルシーのいまの社長は、黒の残党――それも違法薬物のヤバいバイヤーどもだ――と手を組んでいるとしか思えねえ」

 ハンカチの臭いを嗅いでうんざりした表情で、尾田は呟いた。
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