若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 彼が犯罪に手を染めていた事実にマツリカは絶句する。

「まさか……お父さんにも?」
「ああ。医者に不審がられないようすこしずつクスリを増やして、キャッスルシーの社長の椅子を譲らせたんだ。物忘れがひどくなったと本人は思っているけど、クスリが抜ければ後遺症もなくもとに戻る。だから正気に戻る前にマツリカ、君を妻にする」
「言ってることが無茶苦茶だよ! あたしのなかからカナトの記憶を消したところで、マイくんになびくなんてこと、ぜったいないんだから!」
「そんなのやってみないとわからないよ。あの男にされたことをぜんぶ上書きしてあげる。オレの方がりいかを気持ちよくさせてあげられるってその身体に思い知らせないと……もう二度とあの男にりいかを盗まれないように、ね」
「いや、やめて、やめ……ッ」

 猛禽類のような瞳が、弱った獲物を追い詰める。
 逃げられないことをいいことに、ベッドにのぼってマツリカのうえに馬乗りになったマイルは彼女の腕を恭しくつかみ、注射器の針を一息に――……
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