若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 クルーズの本場アメリカでは日々数えきれないほどの観光プランがさまざまな海運業者によって運航されている。BPW社のクルーズ事業は基本的にニューヨーク周辺の日帰りクルーズや十日前後の国内クルーズを中心に扱っているが、ときおり親会社からの命令で半年から一年近くの時間をかけた世界一周規模の長距離クルーズを周航することが決められている。

「その、ハゴロモの添乗員になれってことでしょう?」

 あからさまに嫌そうな顔をするマツリカに、彼はその通りと指を鳴らす。
 海のうえで働くこと自体はイヤではない。問題は滞在している期間だ。長期間クルーズともなれば、自分のための休みなどほとんどない。いくら豪華客船のなかで仕事ができるとはいえ、常に乗客の目にさらされていることを考えると、気が重いのも事実。
 だが、親会社の決定だというのなら仕方がない。
 マツリカははは、と乾いた笑みを浮かべて頷く。

「察しがよくて助かるよ。残念ながら世界一周クルーズには及ばないが、約三か月弱の豪華客船の旅になる。72泊73日の南太平洋クリスマスクルーズだ」
「くりすます!?」
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