若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 ――なぜ、バパは死ななくちゃいけなかったんだろう?

 十五年前の事故の真相などいまさらそう簡単に暴けるとは思えないが、当時シンガポールで事故の報告をきいたマツリカは何年も海のうえで働いていた彼が、彼だけが死んでしまったという現実に強いショックを受けた。半狂乱になった母を支えることで必死に生活していた八歳の彼女は母ごと城崎清一郎に引き取られ、急遽日本へ戻ることになった。清一郎の献身的な愛によって落ち着いた母は再婚を決意し、マツリカの名字が長谷から城崎へと変わった。中学校までは日本の学校で義弟のマイルとともに通っていたが、閉塞的な空気が合わなかった彼女は母の勧めもあってアメリカの全寮制女子高校へ進学した。思いがけず修道院のような青春時代を過ごすことになったが、外見にケチをつける人間やへんな同調圧力のない多様性を受け入れた学校生活で思う存分学ぶことができた彼女はそのまま系列の大学へ進学し国際経営学を学んだ後、鳥海海運と関連するBPWに潜り込んだのである。
 父の死の真相を自分なりに見極めるために。
 だけど、いまはそれだけではない。
 航海士として生きた父のように、海での仕事にかかわりたいと、マツリカ自身が望んだから、彼女はここにいるのだ。
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