若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「カナトさまがなにを考えてらっしゃるのかは存じませんが、タイムリミットは着実に近づいてますよ――若き海運王」

 あのときから十五年、二十五歳になったカナトは老いた父に結婚を迫られている。
 自分が花嫁にしたいと思うのは、シンガポールで出逢った彼女、ただひとりだというのに。
 果たしてマツリカはライバル企業のスパイなのだろうか。鳥海の海運王の名に、彼女は引っ掛かりを覚えるだろうか。
 もしこれが、鳥海の若き海運王――俺だとしたら?

 ノックの音とともに応接室の扉が開かれる。
 その瞬間、カナトは伊瀬に視線を向け、満面の笑みを浮かべる。
 いいことを思いついた、と言いたそうなカナトと、伊瀬ではなく、BPWの副社長兼COOの西島が顔を合わせた。

「そうだ、俺が乗ればいいんだ! 今日だって足が痛い腰が痛いって騒いでいた親父だぞ。三か月近い船の旅なんぞ到底無理だ。それで、彼女が何者なのか正体を見極めればいい。なんなら」
「――カナトさまっ」

 顔面蒼白になる伊瀬と、勝ち誇った表情の西島を前に、カナトは硬直する。

「俺、何かへんなこと言った、か……?」
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