若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「申し訳ないと思うなら、明日以降のお仕事で全力を尽くすこと。いいね―― Luxury(豪華) liner(客船) “hagoromo”(ハゴロモの) concierge(コンシェルジュさん)
「どうしてそれを」
「飛行機で落としていたタイムテーブルをちらっと見ただけだよ? 実は俺も乗客なんだ」

 豪華客船での旅程で寝不足のスタッフに世話をしてもらうわけにはいかないだろ、と朗らかに言い切られて、ついにマツリカは首を振る。

「そうだったのですね、了解しました」
「なんなら朝、起こしに行くけど?」
「そこまで甘えるわけにはいきません。お気遣いありがとうございます。ご乗船お待ちしております。それでは失礼します」
「……あ」

 すっきりとした表情で颯爽とロビーから姿を消すマツリカを見送り、すこし残念そうに若き海運王は呟く。


「――ったく……忘れているなんてひどいじゃないか、まつりいか」
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