若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 まつりいか、と口にしていたのはマツリカの実父であるナガタニがことあるごとに「マリカー、俺のフェスティバルフラワー」と呼んでいたことに反論していたからだ。「マリカーじゃない、まつりーかなの!」そのやり取りをくすくす笑いながら繰り返していた。青みがかった瞳と褐色の肌を持っていた黒髪の父は「祭りの花」が「マリカー」なんだよと常に口にしていたが、その意味はいまもよくわからない。ただ、日本で暮らしはじめた際に自分の名前が珍しいもので、フェスティバルフラワーなどという漢字をあてず、植物の「茉莉花」が一般的だと知ってからは、なんだか恥ずかしくなって自分のことを「まつりいか」と呼ぶことをやめた。唯一の例外が同い年の義弟、マイルの「りいか」呼びだ。

 ――マイくんなら知ってるかも。彼のこと……けど、同じ高専出身でも学年が異なるから名前は知っていたとしてもふたりに面識があるとは限らないか……

「貴女をプレミアムレセプションデスクで見て、いてもたってもいられなくなったんだ。その青みがかった夜の海のような美しい瞳をもう一度覗き込みたかった……やっと、逢えた」
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