アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
「ちょっと待ってくれ」

 いったん通話を切ってユリにかけ直す。

 ――プルルッ、プルルッ……。

 どうしたんだ。

 出てくれ。

 話がしたい。

 話せば分かる。

 待てよ。

 行くな。

 もう一度……。

 もう一度でいいんだ。

 話をさせてくれ。

 ――ツーッ、ツーッ……。

 電源が切られている。

 そんな……。

 電話を切った途端、またミレイユから着信が入る。

「出ない。なぜだ?」

「だから空港にいるからでしょ。日本に帰るんだって」と、ミレイユが声のトーンを落とす。「で、あんた、どうするの?」

「行かせるわけにはいかない」

「じゃあ、早くしなさいよ」

「でも、今は出られない。記者たちが待ち構えてるんだ」

「大丈夫よ。ホテルの裏口に車を止めてあるから。来て」

 このホテルは宿泊者以外誰も客室フロアに上がってくることはできないから、廊下に記者たちはいない。

 ホテルのコンシェルジュに頼んで、従業員用の階段から裏口へ案内してもらった。

「はあい」

 ミレイユが車に寄りかかって右手をひらひらさせている。

「なんだよ、これ」

 ボロボロの2CV。

「いつものV8フェラーリはどうした?」

「あれはアランに使わせてるの。男って、ああいうおもちゃが好きでしょ」

「だからって、よりによってこれかよ」

「我がフランスの名車よ。おばあちゃんがくれたの。女はいい車に乗らなきゃだめよって。乗られるだけじゃだめ。たまには男にも乗らなきゃねって」

 正直どうでもいい。

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