アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 二人乗るのも狭い車内で肩を寄せ合いながらドアを閉める。

 鞭打ちになりそうな振動とともに車が動き出す。

「形見の車だったら、博物館にでも保管しておけよ」

「失礼ね。まだピンピンしてるわよ。コートダジュールで毎日がバカンスだって」

 表通りに出ると、ホテルの玄関前には報道陣やカメラマンが大勢集まっていた。

「スターじゃない、あんた」

「国民的モデルのミレイユ様ほどじゃないよ」

「あの人たちも、まさかこんな車にラファイエット家の御曹司が乗ってるとは思わないでしょ」

「おまえには似合いそうだけどな」

「でしょ、最高にオシャレ」

 おんぼろ車が石畳のパリの道を蛙のように飛び跳ねながら進んでいく。

「ケツが痛い。お尻に穴が開くぞ」

「やだ、あんた痔なの?」

「もっとスピード出ないのかよ。いつもみたいに」

「これでも精一杯。機嫌が悪いと途中で止まるかも。私みたいでしょ」

 勘弁してくれ。

 車はパリ市街を抜け、ようやく幹線道路に入る。

 ほかの車が邪魔そうにどんどん追い抜いていく。

 と、いきなりミレイユがハンドルを右に切った。

「おい、どこへ行くんだ」

「うるわいわね。あんたのリクエストでしょ」

 一面の小麦畑の中に糸のように伸びた道を通って、車が丘を越える。

 その前方に開けた空き地が現れた。

「ほら、早く!」

 車を止めたミレイユがドアを開けて髪を押さえる。

 すでにエンジンをかけてローターを回したヘリコプターが待ち構えていた。

「七分で着くから」

 ふわりと浮いたかと思うと、あっという間に水平飛行に移って、小麦畑も森も高速道路も足下に消え去っていく。

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