アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
「離してくれ。僕らの邪魔をしないでくれ。C'est l'amour. これは僕ら二人の愛の問題なんだ」

 警備員たちが肩をすくめながらあっさりと手を離す。

 まったくフランス人ってやつは……。

 どうしてこうもみな愚か者ばかりなんだ。

 誰にも愛を裁くことなどできない。

 ――それは愛の問題だから。

 誰にも解けない問題だから。

 呆れた表情の彼女を抱きしめる。

「行くな」

 行かないでくれ。

 僕の愛しい人。

 彼女がそっとつぶやく。

「だって、日本に帰らなくちゃならないでしょ」

 ん?

 どういうことだ?

 なんでそんなに冷静なんだ?

「僕が嫌いになったから……なんだろ?」

 彼女が耳を赤くしながらうつむく。

「ううん。だって、元々帰る予定だったし。これからもフランスに住むには正式な結婚の書類がいるでしょ。職場の上司にも退職の挨拶だってしなくちゃならないし」

 ああ、そうだな……。

 ん?

「本気で私もジャンを支えたいから」

 はあ?

 な、なんだよ。

「帰るって……。そういうことなのか?」

「そうだけど」と、彼女が鼻をクンクンさせた。「またミレイユさんの匂いがする」

「そりゃそうだろ。あんな狭い車で肩を寄せ合ってたんだから」

 ていうか、おい、あいつ!

 ――トントン。

 警備員に肩を叩かれる。

 何だ!?

「あちらの人からです」

 差し出されたのは航空チケットだった。

 東京行きのファーストクラスが二枚。

「それは私からのお祝いね」

 アランと腕を組んだミレイユが笑いながらこちらを指さしている。

「おまえ! いい加減にしろよ!」

「あとこれも」と、ゲート越しに紙切れを突き出す。

「何だよ、これ」

「イタリアの大富豪、ミケーレ・ドナリエロが今ね、日本にいるの。これ、連絡先。彼の奥さんも日本人だから話が合うかもね。向こうはあんたのビジネスに興味を持ってたわよ」

「よかったじゃない、ジャン。ミレイユ、どうもありがとう」

 ユリがミレイユに頭を下げている。

 これじゃあ、文句を言うわけにもいかない。

 まったく、降参だよ。

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