アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 言葉通り七分で空港が見えてきた。

 頼む。

 行かないでくれ、ユリ……。

 国際線ターミナル屋上にヘリポートのマークが見える。

「ほら、こっち」

 着陸したとたん、ミレイユに引きずり下ろされる。

 目の前のターミナルビルに駆け込むと、そこは吹き抜けのロビーのてっぺんだった。

 どこだ?

 どこにいる、ユリ!

「ジャン、あそこ!」

 ミレイユが指したのは二階にある日系航空会社のチェックインカウンターだった。

 チケットを受け取ったユリが手荷物検査へ向かうところだ。

「ユリ! ユリ!」

 下へ降りるエレベーターはロビーの反対側。

 すぐそばには階段しかない。

 迷っている暇などなかった。

「ユリ! 待ってくれ!」

 声を張り上げて階段を駆け下りる。

 まわりの人々が気づいてこちらを見上げている。

 なのに、ユリ、なんで君は気づいてくれないんだ。

「ユリ、こっちを見てくれ。僕だ、ジャンだ。君を世界一愛してる僕だよ!」

 彼女がようやくこちらに気づいたのは、もうすでに検査場のゲートを通り過ぎてからだった。

「ジャン、あなたどうして……」

「待ってくれ! 行くな!」

 ロビーを駆け抜け、ゲートに飛び込もうとすると屈強な警備員が左右から立ち塞がる。

「行くな、ユリ!」

 困惑する彼女に向かって警備員の間から手を伸ばそうとすると、腕を拘束され、振りほどこうとすればするほど後ろにねじられる。

 こんな苦痛がなんだっていうんだ。

 君を失うことに比べたら……。

 心臓を撃ち抜かれたって僕は君を離さないよ。

 僕は君を愛しているんだ。

 僕らは夫婦だろ。

 どんな困難でも一緒に乗り越えていくんだ。

 ユリ、君はこの世で一番大切な僕の宝物じゃないか。

 初めて会ったときからこの愛はずっと、ずっと変わらなかったんだ。

 これが僕らの愛の形だろ。

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