アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 ジャンが庭に目を向けた。

「何を見ていたの?」

「幸せ」

 私の返事に一瞬虚を突かれたような表情を見せた彼が頬を寄せてきた。

「僕にも見えるよ」

 彼が軽々と私を抱き上げてベッドへと連れていく。

 フランスのシャトーでこんなふうにされるなんて、本物のお姫様みたい。

 いったんベッドに腰掛けた彼が私を見つめる。

 ブルーの瞳が私を射ぬく。

「ユリ」

 照れくさくて目をそらそうとする私を彼がベッドにそっと横たえる。

「僕を見て」

 その目にはまだ少し寝起きの隙が見える。

 昨夜は獲物を捕らえた猟犬のような目だったのに、今のそんな素の表情にもまた引き込まれてしまう。

「ユリ」

 私の上にのしかかった彼が耳元で名前を呼ぶ。

 彼の息が耳をくすぐる。

 私は思わず声を漏らしてしまう。

 そんな私の反応が彼に火をつけた。

「ユリ、君は僕の宝物だよ」

 滑らかなシルクのナイトガウンを彼の指先がピアノを奏でるように流れていく。

「やっと分かったよ。僕は君に出会うために今まで生きてきたんだ」

 彼の唇が私の首筋を這い、舌先が鎖骨を乗り越えてくる。

「地球の反対側にいた君を見つけるなんて、僕はこの世で一番運がいい男だよ」

 ナイトガウンがめくり上げられ、昨夜の余韻を残す繊細な場所がもう濡れていることを彼の指先が教えてくれる。

「僕には君しか見えない。君以外の何もいらない。君のことしか考えられない」

 私も彼のことしか考えられない。

「ごめん、ユリ」と、彼が急にわびる。「こんなに素敵な君を愛しているのに、僕は言葉で伝えることができないんだ」

 いらないの。

 言葉なんかいらない。

 言葉じゃないの。

 私がほしいのは、ジャン、あなただもの。


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