アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 でも、そんな私を抱きしめる彼の腕に力がこもる。

「どうしたんだい? そんな悲しいことを言わないでくれよ」

「ごめんなさい。なんだか不安で」

「どうして?」

「こんなに幸せだったことなかったから」

 ジャンが私の頭に頬をのせる。

「僕もだよ。こんなに幸せだったことはなかった。今が一番幸せだからね」

 同じ事を言ってるのに、正反対。

 私はネガティブ。

 彼はポジティブ。

 育ちの違い?

 お金持ちと庶民の感覚の差?

 この溝は埋まるのかな。

「心配ないよ」と、彼がささやく。「これからどんどんもっともっと幸せになるんだ。きっとそのうち、『幸せすぎてこわい』なんて言い出すよ」

「もう言いそう」

「そしたらいつでも僕の胸に飛び込んできなよ。震えを止めてあげるから」

「そうする」

 私はジャンの微笑みに向かって唇を突き出した。

 くちばしをつつきあう小鳥のようなキスから、お互いの波長を高めあうように……。

 ――少しはキスも慣れてきたかな。

 と、思ったら咳払いが強引に割り込んできた。

 ――え!?

 クロードさんがドアのそばに立っていた。

 あわててジャンから飛びのく。

 ――ク、クロードさん……、まだいたんですか。

 おじさまはジャンに向かってわざと丁寧な口調で何か言っている。

 フランス語だから分からないけど、『プティデジュネ』という単語だけは分かった。

 ジャンが頭をかきながら訳してくれた。

「片づかないから早く朝食にしろだってさ」

「はい、すみません。今行きます」

 日本語だったけど通じたらしい。

「ウィ・マダム」と、軽く頭を下げてクロードさんが去っていった。

 それから私たちは手早く着替えて、夕食の時と同じテラスへ出た。

 私は日本から持ってきたコットンデニムのワンピースに薄手のカーディガンだったけど、ジャンはアイロンのかかったワイシャツにきっちりプレスされたスラックス姿だった。

 自宅とはいえ城館だから、Tシャツに短パン姿でいるわけにもいかないのかな。

 シャトーホテルに泊まるつもりだったから、私もカジュアルとはいえそれなりにラフではない服だけど、もっとフォーマル寄りの方が良かったかも。

 クロードさんなんか、朝からビシッとスーツだったし。

 そういえば、今日もネクタイの結び目が格好良かったな。

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