アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 明かりを消した部屋で私たちは窓辺に立っていた。

 静かに雨の降る窓の外から差し込む庭園灯の青白い光がかすかに彼の横顔を照らす。

 キスをしながら私はもう下着姿にされていた。

 ブラジャーの肩ひもだけ外しながらジャンがひざまずく。

 胸の浅い谷間に顔を埋めながら祈りを唱えるように彼がささやく。

「あとは自分で外してみて」

 私は背中に手を回して留め具をはずした。

 左胸の傷があらわになる。

「ああ、ユリ、君は僕の女神だ。君をこんなに愛しているのにそれを伝える言葉が分からないよ」

 私を立たせたまま彼が下半身に口づけを浴びせ、手は胸を優しく撫でたかと思うと時には激しく……。

 そのどれもが的確に私の秘められたスイッチをオンにしていく。

「教えてくれ。もっと知りたいんだ。ユリ、教えてくれ、君のすべてを」

 あふれ出る私の愛を彼の舌が吸い上げる。

 腰がとろけそう。

 崩れ落ちる私を抱き上げて彼がベッドへと運ぶ。

 待ちきれない私と焦る彼が愛を求め合う。

 彼の奏でるリズムに体の奥が反応していく。

 私の腕を押さえつけて上体を反らした彼の姿が淡い光に照らされて青白く輝く。

 飢えた狼のように私をむさぼり尽くす彼。

 愛すること、愛されること。

 そのすべてを彼が教えてくれた。

 この瞬間に嘘はない。

 なのにどうしてこんなに切ないの?

 なのにどうしてこんなに悲しいの?

 快楽に突き上げられる私が声を漏らすと、彼が私の頭を抱え込んで肌を密着させた。

「もっと聞かせてほしい。ユリの声をもっと聞かせてくれ」

 耳元でささやかれる彼の声を私も求めていた。

 意味なんかない。

 この瞬間に意味なんかない。

 何も考えられないくらい彼に愛されている。

 形がないからこそ壊れないし消えない。

 だからつかむことすらできない。

 でも、ここにある。

 彼に抱きしめられている今だからこそ感じられる。

 頭の中が真っ白になる至高の快楽に溺れながら私は愛を抱きしめていた。

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