アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 トレーニング代わりに散歩に出ようとしたら、ミシェルさんのところから直しが終わった服が届けられた。

 メイドのおばさんが箱を何段も重ねて部屋に運び入れてくれる。

 私も手伝おうとしたけど、自分たちの仕事だからと断られてしまった。

 人を使うのって難しい。

 これからはお願いすることにも慣れていかなければならないのね。

 どうしても遠慮したり気をつかってしまう。

 日本の職場でも指示を受けて仕事をする立場だったからな。

 あれ、そういえば私、仕事はどうするんだろう?

 これからもフランスに住むんだったら退職しなくちゃいけないし、それはそれで、いったん日本に帰らなくちゃいけないよね。

 そういえば親から連絡は?

 充電が切れていたから、スマホを見ていなかったんだっけ。

 見ると、母親からメッセージの返信が来てた。

『結婚!? 冗談じゃないのよね? 相手は? 写真くらい送ってくれないと分からないじゃない』

 お父さんからは何もない。

 べつに仲が悪いわけじゃなくて、急に娘が外国の男と結婚したら、黙っちゃうんだろうな。

 ごめんね、お父さん。

 こんなお騒がせな娘で。

 今まで地味に生きてきたからビックリだろうな。

 ていうか、絶対にだまされてるって心配してるよね。

 そういえば、ジャンと写真も撮ってないな。

 こういうところでふだんの自分が出ちゃうのよね。

 誰かに見せるために写真なんて撮ったことないもんな。

 帰ったら、一緒に撮ってもらおう。

 チューしてるところがいいかな?

 ――お父さん泡吹いてひっくり返るな。

 山積みの箱を開けてミシェルさんの服を取り出してクローゼットにしまう。

 ピスタチオグリーンのチュニックを着てみる。

 下に履くグレーのレギンスパンツも一緒になっていた。

 軽くて肌触りも良くて、散歩に行くのにちょうどいい。

 そういえば、服に合う靴も買わなくちゃね。

 こんなふうに物が欲しくなったのも久しぶりかな。

 毎日同じ服を着て同じ靴をはいて、同じところに通勤して同じ家に帰ってくる。

 服は穴が開いたら買えばいいし、靴はぼろぼろになるまで履き潰す。

 そういう今までの生活が悪いわけじゃないけど、コーディネートを楽しんだり、それを着ていくための場所を見つけて楽しむ生き方もある。

 これからはそういう生活に慣れていかなくちゃいけないのかも。

 と、一人ファッションショーをしていて、ふと思い出してしまった。

 で、この結婚の意味は?

 この結婚、この生活は、本当に続くのかな?

 素敵な服を着てるのに、なんでため息が出るんだろう。

 もしかして、これってマリッジブルー?

 結婚してから出るなんて、やっぱり私は私……なのかな。

 なんかまたため息が出ちゃった。

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