彼と私のお伽噺

「急にこんなことしたりとか、婚姻届渡してきたりとか、今すごく混乱してるんですけど……。昴生さんは、私のことが好き……、だったんですか?」

 昨夜は海外への転勤に私を連れて行く手段かのように突き付けられた婚姻届。それにサインをするかどうかの答えを出す前に、昴生さんの気持ちをきちんと確かめたい。

 シャツの袖をつかまえたままジッと見上げると、昴生が真顔で口を開いた。


「そんなこと、今さら確かめてどうすんだよ」

「だって……」

「俺だって、さすがになんとも思ってないやつに婚姻届突き出すほど頭おかしくないから」

「じゃぁ……」

「俺が好きだって言ったら、お前は今すぐ結婚してくれんの?」

「そういうわけではない、ですけど……」

「じゃぁ、お前が婚姻届にサインしたときにちゃんと言ってやるよ」

「そんな交換条件、ずるいです」

 拗ねて頬を膨らませると、昴生さんが片手で私の膨らんだ両頬を押さえてつぶす。

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