彼と私のお伽噺
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TKMグループの総務部に入社して、半年。
私が所属する総務部は、先輩たちの雰囲気が良くて職場環境も快適だ。
「矢木さん、そこまでできたら先に昼休憩取ってきていいよ」
頼まれていた資料整理が終盤に差し掛かった頃、隣の席の山里さんが声をかけてくれた。
入社してからずっと、私の教育担当として付いてくれているのが、3つ上の先輩の山里さん。声や話し方が優しくて、ふわっと柔らかな笑顔を向けてくれる彼女は、職場での癒しだ。
「ありがとうございます。ここまで終わらせたら、お昼いただきます」
作業の手を止めて、山里さんにペコッと頭を下げる。それから残っていた仕事を片付けると、お弁当を持って給湯室へと向かった。
昼ご飯用に給茶器でお茶を淹れながら、ふと昴生さんのことを思い出す。
昴生さんもそろそろお弁当食べてくれてるかな。それより、婚姻届のことはどうしよう。
昴生さんには一ヶ月間じっくり考えると言ったけど、私の中ではとっくに答えが出ている。
ずっと好きだと思っていた人に結婚を促されて断れるはずがない。
すぐにサインをしなかったのは、少し焦らして昴生さんの気持ちを確かめたかったからだ。だけど、たぶんそんな必要はなかった。
出社前。「早くサインしろ」という催促とともに、されたキス。それを思い出すと、カーッと頬が熱くなった。
はっきりとは言ってくれなかったけど、昴生さんも私のことを好きだと思ってくれている。