彼と私のお伽噺

 興奮気味に給茶機のボタンをピッ、ピッと押していると、総務部の戸崎部長が給湯室に入ってきた。

 
「お疲れさま。矢木さん、カップからお茶が溢れ出してるけど大丈夫?」

「え……?」

 戸崎部長に指摘されて視線を落とすと、給茶機の受け口に置いたカップから熱々のお茶が溢れ出していた。
 どうやら、昴生さんのことを考えながら給湯器の抽出ボタンを何度も押してしまっていたらしい。


「ほんとだ、すみません。あちっ!」

 慌てて受け口からカップを取り除こうとして、溢れているお茶に直接触ってしまう。

 反射的にカップから離した手を口元にあてて、ふーふーと冷たい息を送っていると、一連の流れをそばで見ていた戸崎部長に笑われた。


「大丈夫? ずっとぼーっとしてたみたいだけど、何か悩み事? 仕事で困ってることがあるなら、話を聞くけど」

「いえ、そういうんじゃないです」

 悩み事と言えば悩み事だけど、個人的なことだから話せるはずもない。

お茶に触って危うくやけどしかけた指先を握りながら、戸崎部長に変なところを見られてしまったな、と恥ずかしかった。

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