彼と私のお伽噺

「ど、どうしてここにいるんですか?」

「それはこっちのセリフだ。お前こそ、なんで俺に許可なくホテルになんか泊まってんだよ」

 低い声で問い詰められて、身体が縮こまる。


「そ、れは……」

 膝にかかっているブランケットをぎゅっと握りしめてうつむくと、昴生さんが私の顎をつかんでグイッと持ち上げた。


「お前まさか、俺に隠れて部屋に男連れ込んだりしてないだろうな」

 昴生さんに上から睨まれて、じわりと目の端に涙が滲む。


「そ、それこそこっちのセリフです! どうして、昨日は嘘ついたんですか?」

「嘘?」

 他の人と会ってたのは私じゃなくて昴生さんのほうなのに。


「嘘ついたじゃないですか。昨日の夜に一緒に食事をした相手、ほんとうは優生さんじゃなかったんでしょう?」

「なんのことだよ」

「とぼけないでください。楽しかったですか? 妃香さんとのデートは」

 涙目でじっと睨むと、昴生さんが私を見つめてまばたきをした。

< 92 / 105 >

この作品をシェア

pagetop