彼と私のお伽噺

「悪いが、咲凛が言ってることがよくわからない。妃香さんとのデートってなんの話だ?」

 昴生さんが怪訝そうに眉根を寄せる。

 こんなにも決定的な事実を突き付けているのに、昴生さんが少しの動揺も見せないどころか、妃香さんとのことを認めようとしないことに腹が立った。


「嘘つき! 私、昨日の夜見ましたから。昴生さんが、オフィスの近くのカフェで妃香さんと待ち合わせしてるところ。それに、これは偶然ですけど……、私、何度か妃香さんが昴生さんに『会おう』ってラインしてきてたことも知ってます」

 早口でそんなふうに捲し立てると、昴生さんがようやく微妙そうに表情を歪めた。

「私と結婚したこと、後悔してますか? ニューヨークに連れて行くのは、やっぱり妃香さんのほうがよかった? あの人、大人で美人だし、私なんかよりもずっとコウちゃんに似合って────……」

 泣きながら責め立てていると、昴生さんが私の腰に手を回して抱き寄せてきた。


「離して」

 私の話はまだ全然終わってないのに……! 

 抵抗して暴れると、昴生さんに手首をつかまれて強引に唇を塞がれた。舌を入れられ、咥内を舐め回すようにキスされて。昴生さんに抵抗する気力を奪われる。


「ちょっと落ち着け」

 昴生さんが、腰に回していた手をずらして私の背中を撫でる。

 それから私の耳元で「お前、俺のこと疑ったんだな」と、不機嫌そうにつぶやいてきた。

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