冷めない熱で溶かして、それから。



「じゃあ密会ですね」
「その言い方、なんかやだ……」

 密会なんて、悪いことをしている気分だ。
 別に松野くんと会うのが悪いこととは思っていない。

 

「それならひと気がないところで会いましょうか」
「その言い方も悪い誘いな気がするよ……!」

 それでも、密会よりはマシ……なのかな?
 それとも松野くんが言うから悪く聞こえる……とか?


「あ、いま失礼なこと考えましたね」
「えっ、どうしてわかっ……あ」

「やっぱり考えてたんですね」
「そんなことないよ……!」

 つい顔に出ていたようで、松野くんにいま私が思っていたことを察せられてしまう。

 思わず濁したけれど、松野くんは小さく笑って「本当ですか?」と聞いてきた。


 なんだか、いつもの私たちに戻れた気がする。
 まだ前に進めない私にとって、今の距離感は心地よかった。

< 109 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop