契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした

16.濡れ衣なんだっ!

 綾奈はハンカチで目元を拭きながら、槙野にずいっと近寄る。
「そんな! 婚約なんて聞いていません」

──まるで約束でもしていたかのような展開はやめてくれ!
 美冬は感情のない目で槙野を見ていた。

「ちょっと待ってください。綾奈さんとは何のお約束もしていませんよね?」
 槙野は綾奈を突き放したかったが周りの目もある。

 そんなことはできない。
 だから極優しくそう言ったのだ。
 むしろ!お前から離れたかったと言っても過言ではないんだ!

「けど、私はお慕いしておりました」
 認めてくれたのは良かったけれど、いじいじとのの字を書いている様子がなんとも言えない。

 槙野は髪をかきあげて一瞬、軽く息をついたあと、口を開いた。
「こちらの椿美冬さんが俺の婚約者なんだ」

 美冬が槙野の方を見て口を開きかけたけれど、槙野は今伝えなければいけないことを伝えようと思う。

「アプローチしてやっと了解をもらった大事な人なんです。美冬はびっくり箱みたいな人で、本当は俺のことは最初は怖かったはずで、けど頑張り屋で会社のことや従業員のこともしっかり考えていて慕われていて、可愛くてとにかく本当に大事で好きなんだ!」
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