契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした

6.手順もあるんです

「そ……それ、言わなきゃダメですか?」
 ミルヴェイユの椿美冬から『事情』を聞いた時、槙野は笑ってしまった。

 創業者である祖父に業績か結婚か迫られていて、どちらかを実施しないと社長を降ろされるんです……と項垂(うなだ)れていた。美冬は表情が活き活きとしていて、思っていることが全部顔に出てしまうような女性だ。

 元気が良くて、正直で、そして仕事のことばかり考えている。

 そうしてふと、槙野は思った。
 これはもしや、お互いに条件に合うのでは?
 気持ちがあってもなくても、お互いにパートナーを必要としている状況。

「槙野さん助けてくれますか?」
 そう言った時の美冬は……なんというか瞳の揺れる感じすら女性だと感じた。守りたいと一瞬思ってしまったのだ。

 最初は甘やかされて社長になったお嬢様なのかと思っていた。けれど、美冬はいつも一生懸命で、真剣な顔をしたり瞳をキラキラを輝かせたりする。

 けれど、美冬が槙野を苦手に感じていることも槙野は分かっている。

「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
 そんなことを言ったって、絶対に了承なんかしないだろう。
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