契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 美冬は槙野に対して最初から怖くて怯えていたのは分かっていたし、槙野の場合、こちらが怒っていなくても、場合によっては相手を怖がらせてしまうことがあることは過去にも経験済みだ。

 だから断られる前に書類を手にして立ち上がって背を向けた。
 こちらが好意を持っている相手に怖がられることほどつらいことはないからだ。

 ガシッとスーツの腕を掴まれた時は何が起きたか分からなかった。
 振り返ると、低い位置にある美冬の整った顔がこちらを必死な表情で見ている。

 童顔だけれど、お人形のように整っている顔。
 好みで言えば外れている。

 槙野は仕事で成功してからは取り憑かれたように派手な女性たちと付き合った。中には良い子もいたけれど、そんな時自分の方が本気になれなかったりして縁はできなかった。

 最近良いなと思う女性が、おとなしそうでたおやかな人に目が行くのは、親友の結婚の影響もあるのかもしれない。

 こんなに破天荒で元気な女の子!といった感じの美冬は槙野の現在の好みからも外れる。
 なのに必死な美冬はやけに綺麗で。

「なんだ?」
 顔なんて見れなかった。
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