極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました～一途な海運王の華麗なる結婚宣言～

「……っ」

　思い出の中の面影をたどろうとしたその時、翔一郎さんのスマートフォンが鳴った。
　形になりそうだった記憶が霧のように散ってしまう。

「すまない。仕事の電話だ」

　スマートフォンの画面で発信者を確認した翔一郎さんは顔をしかめて、わたしに向き直った。

「え、ええ、どうぞ」

　彼は席を立って、離れたところで話しはじめる。
　少ししてから戻ってきて言った。

「仕事が入ってしまった。また部屋に戻らなければならない。しばらくまた一人にしてもいいか？」
「もちろん。お仕事、がんばってきてくださいね」
「ああ。ありがとう」

　わたしが軽くガッツポーズをすると、翔一郎さんはちょっと照れたように笑ってピアノバーから去っていった。
　わたしはしばらくつたないながらもピアノを楽しんでから、担当者にお礼を言ってバーを出た。

「どこに行こうかな？」

　速い鼓動がまだ収まらない。
　なんとなく人と話して、狼狽に似たこの落ち着かない気分を変えたかった。

「プールに行ったら将生さんがいるかしら……」