極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
 近代的な蒸気船が初めて北大西洋を横断したのが一八三八年。その後、ヨーロッパから新大陸への移民が相次ぎ、その歴史の流れの中でイギリスの海運会社が大型で華やかな客船を造りあげた。
 大型客船時代のはじまりだ。

 その伝統的な航路を、就職する前に純粋なゲストとして体験しておきたかった。

結衣(ゆい)とさくらも来ればよかったのに」

 クルーズに申しこむ時に、一応友人も誘ってみたのだけれど、船旅はちょっとマニアックらしい。老後の楽しみのイメージが強いみたいで、誰も一緒に来てくれなかった。

 というわけで、今回は一人旅だ。

 数年前の改装でできたばかりのシングルルームを借りて、気楽に過ごす予定。
 シングルの客室は窓もなく狭いけれど、船内をくまなく探検してイベントもできるかぎり参加するつもりだし、夜は寝るだけなので問題ない。

 北大西洋を渡るニューヨークまでの八日間の船旅をわたしは思う存分満喫するつもりでいた。

「ちょっとあの子、日本人?」
「そうみたいね。ドレスコードを確認しなかったのかしら」

 背後から日本語が聞こえてきた。
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