離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
ー8ー

「無理して出勤することは無い。定岡さんには俺が言っておく」
「ちょっと食欲が無いだけだから大丈夫です」
「ちょっとどころか、今朝は殆ど食べて無いだろう。凛音、医者の言う事が聞けないのか」

 最近の暁斗には珍しく、かなり不機嫌になっている。それは自分の事を思って言ってくれているのは分かっているのだが、この3日間ほど同じような会話が毎朝夫婦の間で繰り広げられていた。

 暁斗と美咲の会話を聞いてしまった後、凛音は冷静に現実を受け止めようと努力した。

 ――ふたりは未だに想い合っていて、結婚したいと思っている。

 そもそも女性を近づけさせない方便だと思っていた暁斗の『結婚を約束している人』というのは、実は、美咲のことでは無かったのだろうか。

 だって、美咲は自分とは比べるまでも無く彼の妻に相応しい女性。
 自然消滅のようになっていたが、きっと、暁斗も心のどこかで彼女の帰りを待っていたのだ。
 再会して、お互いの想いは元に戻ったのだろう。

 暁斗は凛音に契約結婚を持ちかけた時、お互いのメリットの為と言ったが、本当は、金銭的に追い詰められている凛音を一時的に助けるためだったのだろう。
 凛音は今頃になって気付いてしまった。
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