背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 三月の空港は、多くの人が行き交っていた。

 手荷物を預けて身軽になった尚政の手を取り、一花はこれからしばらく感じることの出来なくなる熱を指先に覚えさせる。

 大丈夫とは言ったけど、やっぱり寂しい。会いたい時に会える距離に先輩がいないなんて……。

 思わず指に力が入ってしまい、そのことに気付いた尚政が一花の肩を抱き寄せる。

「ずっと会えないわけじゃないしさ。同じ日本にいるわけだし」
「うん、わかってる……」

 二人は歩きながら展望デッキへと出る。見上げてみると、飛び立つ飛行機もあれば、着陸する飛行機もある。

 新生活が始まって、先輩は新しい出会いをたくさんするはず。そんな中で、誰か良い人をみつけたりしないだろうか。ちゃんとここに帰ってきてくれるだろうか。

 一花の不安を察してか、尚政がそっと頭を撫でる。中学生の時ならこれだけで満足出来たのに、今はこれだけでは不安を払拭することは無理だった。

 尚政は一花の手を引いて、隅の方のベンチに座った。

「ねぇ一花、今から飛行機の時間まで、久しぶりに恋人ごっこしようか。言いたいこと、したいこと、まだ出来てないことない?」
「……ある」
「実は俺もあるんだ。恋人ごっこなら素直に言えそうなんだよね」

 尚政は優しく笑うと、一花の髪に指を滑り込ませ、耳元に口を寄せる。

「一花と離れるのが寂しい……そばにいて欲しい……本音を言えば連れていきたいくらい……一花のことが好きだよ……」

 尚政の息が耳に降りかかり、一花は体の奥が熱くなる。そして彼の言葉に胸が締め付けられた。これが恋人ごっこなんて前提がなく普通に言われた言葉だったら、どれだけ嬉しいんだろう。

「私だってずっとそばにいたいよ……。本当は不安で仕方ないの……先輩に私じゃない良い人が出来ちゃうんじゃないかとか……あの歌の歌詞みたいなのを想像して怖くなる……」

 それを聞いて尚政は吹き出す。この話をした時は気丈な一花に救われた。でもこうして不安を隠さず伝えてくれることで、自分が必要とされてると思える。

「大丈夫だよ。一花は俺の原動力なんだから。俺だって不安がないわけじゃないけど、今は頑張る時かなって思ってるんだ。一花のおかげでそう思えるようになったんだよ」
「私?」
「そう。だから毎日ちゃんと一花をチャージさせてくれないと困るからね」

 二人は笑い合うと、ふと視線が絡み合う。どちらからともなく唇が重なり、何度も何度もお互いを求めるようなキスをする。

 大好き……本当は離れたくない……。その想いは言葉にならず、熱い呼吸の中に溶けていった。
 
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