不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
紗世の受難1
 波斗のいない日の昼食時は、紗世にとっては苦痛の時間だった。

 大学の後輩とはいえいつも紗世が一緒にいるので、今まで以上に波斗に話しかけにくくなったと思う人も多数いる。そういう人たちがここぞとばかりに突いてくるのだ。

 実を言えば大学時代も同じようことがあった。波斗が困ると紗世たちの元へ逃げてくるので、年上の女子からの当たりは強かった。しかも、千鶴に彼氏が出来、美琴には兄という後ろ盾があったが、紗世には何もなかったため標的になりやすかったのだ。

 こういう日は麺類に限る。とりあえず飲み物のように流し込んで、研究室に戻ればいい。

 紗世は山菜そばを頼んで席についた。

「あら、目黒さん。今日は一人なの?」

 来た。話しかけてきたのは波斗の同期入社の森野だった。

 スパゲティの皿の載ったトレーを持ち、許可もしていないのに紗世の前に座る。

「こんにちは」

 とりあえず当たり障りのない笑顔を返す。 

 森野は紗世が入社するまで、波斗が一番仲の良かった女性だったと聞いたことがある。

 きっと先輩にとっていい逃げ場所だったのではないかと紗世は推測していたが、それは波斗側の意見で、女性側からすれば満更でもなかったように思うのだ。

 私だって少し特別な感じがしていた時期もあるから。

「最近上野君、同期の集まりにも参加してくれなくなったんだけど、何か理由とか知ってる?」
「すみません。知りません」

 紗世のことを見る森野の目が怖い。

「昨年まではこんなことなかったのよ。誘えばちょっと遅れても来てくれたし」
「勤務先も変わったみたいですし、忙しいんじゃないんですか?」

 まるで今年紗世が入社してから変わったとでも言いたいようだ。

「ふーん……。そういえば最近一緒に出勤してるって聞いたけど、本当に仲が良いのね。彼が誰かに構うのを初めて見たからびっくりしたのよ」
「元々最寄駅が一緒なので……」

 森野の"彼"という言い方が気になったが、怪しまれないようスルーする。

 とりあえず早く食べて出よう。紗世はそばを流し込む。

「目黒さんと上野君って、大学の先輩と後輩っていうだけ?」
「当たり前じゃないですか」

 森野はにっこり笑う。

「良かった」

 カチンときたが、怒りと一緒に汁を飲み干し立ち上がる。

「では私はこれで……」
「あっ、目黒さん」

 まだ何かあるの?

「はい?」
「上野君に同期会に行くように勧めてくれる? みんな会いたがってるから」

 みんなじゃなくて、あなたがじゃないの? 毒付きたいのをグッと堪える。

「失礼します」

 そうして後ろを振り返りもせずに立ち去った。

 先輩の人当たりの良いところは好きだけど、時々うんざりしてしまう。
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