天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~

 少し驚いてしまったけれど、フランスでは上司や初対面の人でも気軽にファーストネームで呼び合うのが当たり前なんだから、この呼び方に深い意味はないんだと思いなおす。

「里帆はひとりで旅行に?」

 旅慣れているわけでもないのに、ひとりで旅行なんて変に思われるだろうか。
 そう思いながらも「はい」とうなずいた。

「バッグを取り返した礼はいらないから、せっかくの旅行なのにどうしてそんな暗い顔をしているのか、理由を聞いていいか?」

 見ず知らずの人に心配されるほど、暗い顔をしていただろうか。
 ますます自分が情けなくなって、私はきゅっと唇を噛んだ。

「……本当は、恋人とふたりで旅行する予定だったんです」

 私は正直に事情を話す。

 旅行の計画を立てながら恋人とふたりでここを見たい、あそこも行きたい、なんて笑い合っていたことが、遠い昔のように感じる。

「その恋人は、仕事かなにかで来れなくなったのか?」

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