天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 低い声でそう言うと、里帆は驚いた表情でこちらを見上げた。

「彼を忘れられないから、もうパイロットとは付き合いたくないんだろ?」
「違います!」

 里帆は慌てたように首を横に振る。

「もう、尚久にはなんの未練もありません。……パイロットと付き合うのが怖いのは、違う理由です」
「違う理由?」

 少しためらうように視線をさまよわせた後、里帆はゆっくりと口を開いた。

「尚久からの電話で浮気を知った翌日、なんとか気持ちを落ち着かせていつも通り仕事をしていたんです。でも無線越しに宮崎から帰って来た尚久の声を聞いたとき、頭が真っ白になって……」

 通常、離着陸時に管制官と交信するのは副機長の仕事だ。
 最悪のタイミングで志田の便を彼女が担当してしまったんだろう。

「旅客機には大勢の人が乗っていて、その命と安全を守るために管制官はいるのに……。私は私的な感情で、職務をおろそかにしてしまったんです」
「でも、事故は起こらなかったんだろう?」
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