天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
私がたどたどしいフランス語でお礼を言うと、彼の視線がふっと緩んだ。
「いや。日本語で大丈夫だ」
艶のあるバリトンでそう言って微かに笑う。
片方の頬だけ上がる笑い方が、ちょっと皮肉気でやけにセクシーに見える。
日本人なんだ……。
そういえば、ひったくり犯を追いかけようとした私に『ここで待ってろ』と日本語で声をかけてくれたっけ。
顔立ちは日本人なんだけど、独特の雰囲気があるから海外の人かと思った。
それは背の高さや整った外見だけではなく、表情や佇まいに自信があふれているように見えたから。
どんな困難に直面しても、自分の意志と実力で人生を切り開いてしまいそうな頼もしさを感じる。
そんなことを思っていると、近くにある美術館の警備員さんが騒ぎに気づいてやってきてくれた。
警備員さんに話しかけられた彼は、流暢なフランス語で返事をする。