天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
近くにいた数人の男性が彼に協力し、ひったくり犯を取り押さえてくれた。
私が彼らに駆け寄ると、足音に気づいた長身の男性がこちらを振り返った。
黒い瞳と視線がぶつかる。
「あの、ありがとうございます」
お礼を言った私を、彼がまじまじと見つめた。
驚くほど強い眼差しを向けられ、鼓動が速くなる。
少しクセのある黒髪に、意志の強そうな黒い瞳。
彫が深いはっきりとした顔立ちだった。
まるで美術館にある彫刻のように、造形が整った美しさと男らしさを併せ持つ顔。
しかもそれだけじゃなく、自然に人の目を引くような存在感がある。
かっこいい人だな……。と感心して見とれそうになる。
それにしても、どうしてこの人はこんなまっすぐに私を見つめるんだろう。
不思議に思ってからはっとした。
ここは日本じゃなくフランスだ。
日本語でお礼を言ったって、感謝が伝わるはずがない。
「ええと……、メルシーボクー」