スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 俺は慌てて立ち上がり、玄関を飛び出す。
 外は雨が降っており、傘を持ってない紗雪は雨に打たれている可能性があると慌てる。

 俺は急いで車にエンジンをかけ、熊沢宅へととばす。

 紗雪に会って一体どうしようというのか。
 誤解を解き、自分は紗雪を愛しているとこの口で伝えるのか。

 俺はまだ躊躇していた。
 紗雪に愛の言葉を伝えて、春佳と同じような運命を辿ってしまうことになれば──。

 心は決まってなかった。
 けれども家でじっとしていることもできずハンドルを強く握りしめ、進行方向を睨みつける。
 この日に限って信号は赤ばかりで、俺は運命に呪われているのではないかと自虐した。

 しばらく車をとばし、熊沢宅の前に車を止める。彼の家は都内の住宅街の一軒家で、インターホンを押す。

 しばらくするとガチャリと扉が開き、熊沢が顔を覗かせた。
 俺は焦燥感とともに熊沢の胸ぐらを掴んだ。

「おい、紗雪はどこだ!」

「ちょ、ちょっと落ち着けよ。奥方は奥にいる。今はステファニアにが一緒にいる。奥方も疲れてたのかぐっすり眠ってるらしい」

 言葉を聞き、俺は安堵からか力を無くしたように腕を下ろした。
 視線は熊沢のまま、疑問を含んだ視線をぶつける。

「なんで奥方がここにいるのかって目つきだな。答えは簡単! 拾ったからさ! あ、ステファニアがな」

 俺は「拾っただと?」と言いながら含んだ視線で睨みつけた。

「そう睨むなよ。ステファニアと一緒にラブラブなデートしてたらさ、ずぶ濡れで道に倒れ込む奥方見つけちゃって。まあ放って置けないじゃん?」

 紗雪は雨に打たれていたのかと罪悪感を覚える。同時に風邪をひいていないだろうかと気がかりだった。
 だがそれもすべて自分のせいなのだと考えると後ろめたく、とてもじゃないが言葉にできない。

 それを横目で見た熊沢は続ける。

「まあ俺が聞くのもアレだったからほとんどステファニアに任せたんだけどさ…………啓一郎、お前奥方になんしたのか?」

 いつもは明朗で比較的天真爛漫とも言える熊沢は神妙な様子で尋ねた。
 俺は言葉に詰まり、下を向く。
 
 すると熊沢は突然。

「んー、まぁこういうときは飲みに行こう! 奥方はステファニアに任せてさ」

 無理矢理俺の腕を掴み、自宅前に停めてあった俺の車の運転席に乗り込む。
 鍵くれと言わんばかりに腕を出され、渋々それを渡した。
< 73 / 141 >

この作品をシェア

pagetop