こんなにも愛しているのに〜私はましろ
「結局は、お母さんとはっきりと話さなかったけど、
お父さんとやり直すの?」

やり直すのだろう、、、やり直しそう、、、という雰囲気だけで
決定的な言葉を、私も母も言わないで、ここまで来た。

「シンガポールへ行ってから、少しずつ自分の気持ちを整理していたの。」

母は遠慮がちに話し出した。
きっと
私が理由もなくイライラとして、どう言って自分の気持ちを切り出すきっかけが、
掴めなかったのかもしれない。

「お母さんの気持ちを言ってもいい?
きっと
母親としての私に幻滅するかもしれないけど、、、

それが怖くもあるのだけど。」

「もう先延ばしにはできないものね。」

「そうね。。。。その前にコーヒーでも飲もうか?」

「。。。。」

私は軽く頷いた。

ゆっくりと豆を引いて、ドリップでゆっくりと落としていく。
大人の両親が目の前で、楽しんでいたコーヒータイムを、母と二人で
過ごす日が来るとは、、、

「はぁ、、、美味しい。。。」

母はまるで自分を落ち着かせるかのように、言った。

「ましろを失望させるかもしれない。
でも
お母さんは一人の人間として、これからのことも考えて
お父さんともう一度一緒に生きていきたいと、思っているの。

ましろの辛い経験を思うと、本当にこれでいいのかと思って
また自分が大きく揺れてしまうのだけど
あんなに情けないお父さんだけど、やっぱり、
それでもお父さんが好きなの。」

迷いのない言葉だった。

「決して褒められないことをした夫でも、終始情けない態度しか
とられなかった夫でも、お母さんにとっては捨てられない人なんだね。」

「だからと言って、ましろのことを切り捨てたわけではないから。
ましろは大事な娘、ここでもし、どちらかを選べと言われたら
ましろを選ぶ。
だけど、その前にましろに理解してもらえるように、頑張りたいの。」

「大丈夫だよ。
今は、お父さんとやり直したいって言われても、私は自分が捨てられた。
なんて思わないから。
お父さんはお父さん、私は私、、、以前のように何もなかった家族には
なれないけど、お母さんが引き裂かれないように、私はお母さんの気持ちを
優先する。」

もうすでに
お互いに口にはしなかったが、こういう結論になるのはわかっていた。

「私ね、、、
お父さんが帰ってきたら、この家を出ていく。
一緒に暮らすには、私も少し大人になってしまっている気がする。

お父さんを見るたびに、あの時の光景が目に浮かんで、一緒の空間に
いられない。
お母さんのやりきれない気持ちは、その度にお父さんをやっつけちゃえばいいわ。
娘がやっつけちゃったら、父親もなかなか立ち直れないでしょ、、、」

「ましろ、、、」

決して意固地になっているわけでもなかった。
偽らざる私の思いだ。

「だから、国立に受かったら、もう少し脛をかじらせもらって、一人暮らしの
援助をお願いするね。」

「ましろ。。。」

「それと、私も前向きに考えて、お父さんを避けてばかりではいられないし
これから学費とか、人より長く面倒を見てもらうから、、、一度、落ち着いたら
話したい。
よろしく言っておいて。」

母が淹れてくれたコーヒーが入ったマグカップを握りしめて、自分の部屋に
入った。

私は知らなかった。

母がやはり父とやり直すのは、ましろを裏切ることになるのかもしれないと
理恵おばさんに泣きながら話したことも
最後まで迷いに迷って、
あなたとはやっぱり、一緒にいられないと、父に泣きながら訴えたことも。
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