こんなにも愛しているのに〜私はましろ
学校の三者面談で
俺をこき下ろす父親の大声に、辟易としていたが
教室を出ると、そこには次の西澤母娘がいた。

母親は彼女たちに挨拶をしていたが、俺はきっと先ほどの
父親の声が聞こえたであろうと、恥ずかしくって、足早に立ち去った。

帰りの車の中で

「西澤さんとはずっとご一緒ねぇ。いつお会いしても、上品なお母様だし
お嬢さんも清楚ないいお嬢さん。
医学部志望っておっしゃっていたけど、また、ご一緒になったりしてね。」

いつの間にそんな話までしたんだ。
この人は、幾つになってもお嬢さんだ、と母親のことを父親が言っていたが、
ど天然を晒して、面と向かって尋ねたのか。

「母さん、それって個人情報で、俺すら、今知ったぐらいだから、
いろんなところで喋るなよ。」

「紗代さん、そうだよ。ここだけの話にしなさい。」

父親からも注意されて、母親は分かりやすく項垂れた。

けど
俺は内心、まだ、西澤さんと繋がっていられると思い、少し気持ちが上向きに
なった。
彼女のことだ、国立か公立の医学部狙いのはずだ。
同じ大学に行きたい。

大学になったら生まれ変わって、俺らしくなるから。

中坊のように思った。
中坊と大して歳もかわらない癖に。

受験勉強に一層励み出す俺に、両親も満足げだった。
これで落ち着いてくれるか、、、
と思っていたのだろう。

なのに
兄貴の海都が突然、本人は随分前から準備していたらしいが、
千花を連れて、一緒にイタリアへ行くと、宣言しに来た。
元々
父親と進路のことで仲違いをしていたので
はじめっから事後承諾の勢いで喧嘩腰だった。

千花を連れている時点で、父親の神経を思いっきり逆撫でしていた。
兄貴は、父親を100%怒らせることができる。

「千花と一緒になって、イタリアへ行く。
俺は今の千花の継父の力を借りて、美術学校へ入学して、あっちで
やりたかったことを勉強する。」

千花の母親は、うんと歳が離れた、巨匠と言われる現代彫刻美術家と再婚して
イタリアに住んでいた。
千花は母と同行するのが嫌で、日本に残っていたのだ。
(というのは表向きの理由だと、後で知った。)

その巨匠のバックアップを取り付けて、兄貴は日本を出ると言っているのだ。

もちろん
それから大げんかが始まった。
母親はいつものように泣いて止めに入ったが、俺は静観した。

「陸都は止めないの、この喧嘩。」

俺と同じように静観している千花が尋ねた。

「ここで大げんかして別れないと、吹っ切れないんだろう。
千花は兄貴と一緒になるのか?」

「私は海都でも陸都でもどっちでもいいんだけど、西崎の家の子になれるん
だったら。
まぁ、海都は性格に難があるけど、陸都より手っ取り早いかなって思って。」

「なんだそれ。。。」

「ミラノコレクションのモデルオーディションも受けたいしさ。」

千花の他人事のような態度に若干違和感は覚えたが、元々、少し変わっているので
あまり深く考えることもなかった。

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