こんなにも愛しているのに〜私はましろ

父と話す

父が帰任した。
大学受験が終わり、西崎くん、手塚くんの制服のボタンが全てなくなっていた
卒業式も終了し
私の合格発表が終わった頃合いを見計らって、帰任した。

私たち家族の家に父が帰って来たのは
母から聞いていたのであろう、私の一人暮らしの住まいも決まり
明日は引っ越しという日だった。

父は、シンガポールからの荷物が届くまでは、
ウィークリマンションで暮らすらしい。

律儀にエントランスのインターホンを鳴らし、玄関のインターホンを
鳴らし、母に連れられるように部屋へ入って来た。

おかしなくらい緊張した面持ちの父、本当に久しぶりだった。

あの日以来の父。
私と視線をどう合わせようか、迷っているようだ。
その落ち着きのない目の動き、、、既視感が。。。

あの丸坊主になった西崎くんと会った夏休みのあの日。
西崎くんと同じ、、、

「ましろ、、、」

「。。。。。」

もうちょっと歳をとっているかなと思っていたら、思いの外
少し日焼けしており体つきも、心なしかがっしりとなったような
気がする。

「お父さん、体鍛えている?」

「え、、、?」

「記憶の中のお父さんより、少しがっしりとしたかなって思って。」

「鍛えるというか、、、、あちらで時間もあったから、マンションに
併設してあったジムにしょっ中通っていた。」

私からのいきなりの訳のわからない質問に、戸惑うように父が答えた。

「座って、、、お茶でも淹れるわ。
コーヒー?日本茶?」

立ちっぱなしの父に、母がそう言った。
父はおかしなくらいに、恐る恐るといった様子で、いつもの定位置だった椅子に
腰を下ろした。

3年の月日は父を衰えさせることはなかったようだ。

きっと
帰国したら母とまた一緒に暮そうという、目標があって、日々頑張っていたのかもしれない。
今、
ちょっと顔色が悪いのは、娘の私と対峙しなくてはいけないという
緊張感からだと思う。

「ましろ、おめでとう。
高校卒業と大学合格。頑張ったって、お母さんが言っていた。
すごいな、国立の医学部をストレートで入るなんて、、、みんな
祝ってくれただろう?」

「おじいちゃまも珍しくうちまでお祝いに来てくださった。
おばあちゃまは、この間転んで大腿骨を骨折されて入院中だったから、
私から報告がてらお見舞いに行った。
お父さん、お見舞いに行った?」

苦手な祖母だったが、きちんと挨拶には出向き、すっかりと意気消沈している
祖母を見舞った。
以前ほどの酷い毒舌は、吐かれなかった。
また、それはそれで心配、という複雑な心境だった。

「あぁ、ここへ帰ってくる前に。一気に歳をとったようで
ちょっと驚いたけど、、、思ったより元気そうだった。」

父は少し複雑そうな顔をしていた。
父の歳になっても、親の老いを目の当たりにすると、思いはいろいろあるのだろう。

「おじいちゃんとおばあちゃんへは先に電話で報告して、引っ越しが終わったら
遊びに行くつもり。」

おじいちゃんの教え子が、私が行く医学部の教授をしているから、よろしく
お願いしようと言ったのを、必死で止めた。

それだけ、私の大学合格を喜んでくれたのだろう。

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