こんなにも愛しているのに〜私はましろ
陸は自分への視線に気付いたのか、
こちらを見て、私たちを認識すると、笑みを浮かべ、お相手に
何か断りを入れ、大股で人をかき分けてやって来た。

「西澤さんも、来てたんだ。」

「ええ。西崎くんのお母様からわざわざお声をかけていただいて、
ちょっとお話をしていたの。」

「ましろちゃんが参加だったら、陸都、ましろちゃんをエスコート
したらよかったわね。」

お母様が天然発言をされる。
そこへお父様もやって来られた。

「やぁ、ましろちゃん。」

「メリークリスマス。」

私は、なんてご挨拶をしようかと逡巡しながらも、少し子供っぽく
そうご挨拶をした。

「いや、見違えたね。いつも清楚できれいなお嬢さんだけど、今日は
格別きれいだね。紗代さんもそう思うだろ。」

「ええ。本当に。ましろちゃんのご両親様も、ご自慢のお嬢さんよね。」

お母様がしみじみおっしゃるので、恥ずかしくって、多分、
顔が赤くなっていたと思う。

「えっと、申し訳ございません。
私のパートナーをダンスに誘いたいのですが。」

進藤さんがいつの間にか戻って来た。
ホールには生バンドが入って、中央にはスペースが空き、何組かがダンスを
始めていた。

「あらぁ、ましろちゃん、お相手さんがいらしたのね。
まぁ、イケメンさん!」

お母様が華やいだ声を上げられた。
すかさず進藤さんが営業スマイルで自己紹介をして、名刺をお父様に
渡した。
流石だ。

陸は、そんな進藤さんを睨みつけていた。
こんなところで営業しやがって、、、って思っているのか。

そのうち痺れを切らした陸のパートナーがやって来て、陸のご両親に
甘い声で話しかけ、これみよがしに陸の腕に自分の腕を絡ませると
ダンスをねだって、ホールの中央へ連れ出した。
私など、彼女の視界にも入っていないかったようだ。

「やれやれ、あいつも運がない奴だ。」

お父様が小さく呟かれた。

「あなたがどなたにでも、良い顔をなさるから、、、」

お母様が小さく眉を顰められた。

私は、進藤さんから促されるままダンスの足を踏み出した。
このために、ダンスを理恵おばさんや進藤さんを相手に特訓されたのだが、
この距離の近さに、緊張する。

「ましろちゃん、力を抜いて。。。棒を飲み込んだようだよ。」

「ごめんなさい、無理。この近さが、無理。」

「はっきり言うね。
それと
さっきから、彼が僕を睨んでるんだけど、なぜだろうね。」

軽く顎をしゃくると、そこには険しい顔をした陸がいた。
パートナーは、これはチークダンスですかって言いたいくらいの
接近ぶりだ。

「あ、、、曲が終わった。
あと一曲どう?」

「いや、もう、、、」

「ましろを借ります。」

いきなりうむも言わさず、陸がやって来て、腕を取られた。
進藤さんは苦笑している。

ましろって言った?
ましろって呼び捨てにした?

「西崎くん、彼女はいいの?向こうから、睨んでますけど。」

一人で放って置かれたパートナーが、私たち、正確には私を
睨んでいた。
きっと、この曲が終わったら突進してくるに違いない。

「西澤さん、踊れるんだ。」

パートナーから睨まれていても、陸は平然として踊り続けた。

「一緒に来た人は弁護士?」

「母の親友で私の第二の母でもある人の、弁護士事務所に在籍している人。
あの人に連れられてではなく、母とその親友二人に唆されてここに来たような
もの。
社会勉強ですって。」

「びっくりした。
母さんと話をしている美女は誰と思ったら、親父も嬉しそうに近づくし。」

「お世辞も上手だね。
西崎くんのタキシード姿、見違えちゃった。
こういう場所にもすごく慣れているみたい。」

「俺も、両親に唆されて来た。おまけに、親父からいいようにされて
やりたくもないエスコート役とか、押し付けられて、、、

ここから抜け出して、ロビーラウンジでお茶でもしないか?

鼻先から全身に香水の匂いが絡みついて、あともう少ししたら
絶対に気分が悪くなると思う。」

「この匂い、会場に漂っている匂いではなく、西崎くんからしているのね。」

「あぁ、香水の瓶をひっくり返したような、すごい匂いをさせていたからな、
あの人。」

思いっきり眉間に皺を寄せて、西崎くんが言った。

「私は、人の恨みをかいたくないなぁ。」

「恨まれるほど、相手のことを知っているわけじゃないよ。さっき初めて会って
あっちの親と本人から、強引に寄って来たんだから。

あっ、曲が終わった。
俺、親父に抜けることを言ってくるから、ちょっと待ってて。」

陸はそういうと、長い足で人の波をくぐり抜けて、お父様に断りにいった。

お父様もお母様も、遠目にかすかに笑っていらっしゃるように見えた。

「ましろ、、、楽しんでいる?」

やっと営業から帰ってきた?理恵おばさんから声がかかった。

「もう、勘弁してほしいから、友人の西崎くんとこの下でお茶をして帰る。」

「僕が送りますよ。最後まで、見届けます。」

進藤さんがそう言った。

「ありがとうございます。ちょっと彼とも話したいので、どうぞ、
お気になさらないでください。」

「ましろちゃん、、、ツレないなぁ。」

進藤さんが、わざとらしく胸に手を当てて言った。

「こんばんは。」

「こんばんは。ましろとこれからデートですって。」

「少し、下でお茶をして、ちゃんと家まで送ります。
ご心配なく。。。信じてもらえますか?」

「そうね、、、あなたたち二人とも、もう大人だから。ましろの父親に
殴られないように、ちゃんと自制してくれたらいいわ。

私からも今日は、西崎くんが送ってくれるって言っておくから。
ましろをよろしくね。」

「はい。」

絶対に初対面ではないと感じられるものが、二人の間に流れていた。
いつかその訳を、教えてもらえる日が来るのだろうか。

陸は私の背を手で軽く押すようにして、会場を後にした。

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