こんなにも愛しているのに〜私はましろ

好き

翌日
私は陸に自分の胸の内を、素直に明かした。
二人でゆっくりと進むもりだったのだが、それからのことは
ジェットコースターのようだった。

陸が私の両親に、結婚を前提に付き合いたいので、それを許してほしいと
宣言した。
私もきちんと付き合って行きたかったから、陸の隣に座って
両親に言った。

父は
私との距離を縮められないまま、嫁に行くのかと、かなり意気消沈していた。
しかし
面と向かって反対する理由もなく

「ただただ、幸せを祈っている。」

と言葉を振り絞るように言った。

陸の両親にも報告した。
こちらは
もうお祭りのような騒ぎだった。

私は救いの女神のような扱いを受け、お義父様もお義母様も
私に感謝を述べられた。
陸のこの家での評価はかなり低いようだ。

まだ医学部もあと1年を残し、国家試験も控えていることから、
私たちの結婚は遠かった。

西崎くんを陸と呼び、私のことをましろと呼ぶようになり、私の部屋に
入り浸りになっている陸だったが、絶対に泊まらせることだけは
しなかった。

実家暮らしの陸と一人暮らしの私、いくら大人になったからと言って
あちらのご両親が心配されるような、付き合い方はしたくなかった。
うちの両親に対しても同じだ。

もっとも
不満タラタラと帰る陸が、自宅に帰って、お義母様から
『あら、帰ってきたの?ましろちゃんのところに泊まるかと思ってた。』
と言われるたびに、Uターンしようかと思っていたと、言っていた。

結局
あちらのお義父様が、ケジメをつけないと西澤の両親に申し訳ないと
おっしゃって

国家試験合格をもらった日に、私たちは双方の両親の立ち合いのもとに
婚姻届に記入して、提出し、晴れて夫婦となった。

初期研修が終わったら、式を挙げる予定だ。

未熟な二人の結婚生活がスタートした。

新居は、現在住んでいるマンションの階違い。
一部屋増えた2LDKの住まい。

双方の母親はいろいろと新居に持たせたいものが、あったようだが
私たちが、今はまだいいからと、断った。
新婚の匂いなど、ひとつもないような部屋だが、それが落ち着く。
帰ってきたら、お互いに忙しく、一人暮らしと変わらないことが
ほとんどだが、それでも、ここが二人が帰ってくる場所。
そう思うと、あのいつも騒ついていた心が、ここに来て初めて
落ち着いた凪のような気持ちになることができた。

陸は、無理をしないで、二人でできることは二人でしようと言ってくれた。
二人とも、誰かと暮らすなどとは初めての経験だ。
おまけに研修生活、忙しく眠れないことがほとんど。

生活のストレスは溜めたくないが、溜まってしまう。
そんな時は、無理をしないで、楽にできる時にどちらかがやろう。
お互いに、キャパの容量も違うから、そのことで悩むくらいだったら、
話し合おう。寝ているところを叩き起こしてでも、話し合おう、、と
私たちは話した。

どこでも靴下脱ぎ捨ての陸には、思いっきり怒って、最初に躾けた。
頼むくらいなら、自分でやった方が早いと思う私には、陸が
俺を頼れ、と私の眉間の皺に指を当てて、必ず言う。

違うところで、違うように育った私たちだもの、いろいろなことが
違って当たり前、これから、同じ釜の飯を食って、ちょっとずつ
寄り添っていければいいのではないか、、、

この家に待っている人がいるという、暖かな気持ちを忘れずに。
お互いがお互いを思っていれば。

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