こんなにも愛しているのに〜私はましろ

不協和音

私の結婚生活と同時進行の研修医生活。
よくぞ倒れなかったと、思うくらい大変だった。もちろん新人医師は
全員大変だったと思うが。

同じ大学に進学せず、一人お祖父様の意向で遠くの医大に追いやられた
(これは本人の弁)手塚くんが、1年遅れで(なんと、お祖父様に反抗すべく
わざと1浪したらしい)研修医として私たちと同じ病院にやってきた。
これには
驚いたが、鬱陶しくなりそうと、ちょっと頭も痛かった。

案の定、親友が初恋を実らせて結婚したと喜び(本人の弁)
私からすれば必要以上に私に絡みだし、陸が怒る、、、というパターンができた。
もちろん、我が家へは出禁となっている。

そんな手塚くんは周りの同僚にも看護師さんたちにも、とにかく良くもてた。
男女構わず、年齢構わずなので、ちょっとした人たらしだ。

段々と調子に乗って、
結婚しているのに、頭数合わせで、合コンに陸を連れ出した。
周りからの話で私の耳に入り、そこから私の怒りを買い、
陸を家から追い出し、手塚くんには絶交宣言をしたこともある。

そんな手塚くんが、私と一番仲がいい看護師の曽根田 美郷ちゃんに
興味を持った。

美郷ちゃんは、私の小学校時代の友人で、ご両親の離婚で小学校卒業と同時に
お母さんとどこかへ行ってしまって、お別れも言うことができずに
別れた仲良しだった。

後で聞いたら、美郷ちゃんのお父様が有名な映画監督さんで、そのお父様が
またまた有名な既婚の大女優さんと恋愛し、一大スキャンダルとなり
身内の不祥事だったが、当時、学校前にも非情にも、芸能記者が
美郷ちゃんとお母さんのショットを撮るために、出張っていたりしたため、
学校側が安全と風紀上、これはこの学園にはふさわしくないと、
このまま美郷ちゃんが中学に上がることに、拒否の態度を示したらしい。

それで
美郷ちゃんは、ショックでみんなにお別れを言うこともできず、卒業式に
出ることもできずに、そのまま、お母さんのご実家に身を寄せたと言うことだった。

すっかり大人になって再会した私たちだったが、美郷ちゃんはあの時のままの人で、
私が大好きな美郷ちゃんだった。

看護学校を卒業して、将来を嘱望される優秀な看護師さんだった。
そんな美郷ちゃんを手塚くんは好きになったらしい。

美郷ちゃんから、手塚くんのことで相談を受けたときは即答で
「やめた方がいい。」
と私は答えた。

陸は、手塚くんに苦い思いもたくさんしたはずなのに
「達は、本当は繊細でいい奴だよ。」
と庇ったが、私は信じられなかった。

美郷ちゃんが不幸になることは避けたかった。
あんな手塚くんじゃなくて、他にいい人はもっとたくさんいる。

そんな思いを持つ私に陸は

「意見を求められたから、言ったまでだろうけど。
そこまで言って、あの二人を引き離す権利はましろにはないと思う。
絶対に不幸になるっていうことも、他人の俺たちには言えないんじゃないか。

ましろは、達の上部だけしか知らないだろ?」

「だから、黙っていろって?
達の上部、、、陸を合コンに誘ったり、キャバクラに連れて行ったり
私にバレていないって思っているかもしれないけど、病院の中には、
ちゃんと教えてくれる人はいるのよ。
面白おかしくね。。。

陸だって、みんなにいい顔をして、結婚しているのに、看護師さんたちから
押し切られたら、一緒に打ち上げだかなんだかで、飲みに行ったりしているでしょ。
それが、手塚くんが一緒になってそんなことをしているから
私の心象は悪くなる一方じゃない。」

「えっ、、、、」

「いい友達だから、達に誘われて仕方なくなんて言えないわよね。
別に、合コンだろうが、キャバクラだろうが、行きたければ、行ったらいいわ。

その代わり、その事を面白おかしく私に、マウントを取るみたいに
言わないでくれって、あのあなた推しの看護師さんたちに言って!」

手塚くんと美郷ちゃんの話がいつの間にか、夫婦喧嘩に発展した。

「そんなに怒らなくても、、、達だけじゃなくって他に同期の奴らも
いたし、、、
合コンは数合わせで、騙されたみたいに参加しただけで、、、」

「他の人を理由にしないで。
陸が断れば済んだ話なのに、自分も行きたくって行ったんでしょ。

楽しかったんじゃないの?

手塚くんが、不特定多数の人と付き合っているのを知っているし
異性関係にルーズなのも知っている。
なのに、私の大事な友達に、付き合いたければ反対しないよって
言える?

私は言えない。」

「達はやっと本気で好きな人を見つけたんだ。
わかってやれよ。ましろがから反対されたって、曽根田さんから聞いて
凹んでいた。」
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