冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 話の流れを無視した、一方的な問いかけを放つ。切れ長の目が、わずかに見開かれた。

 気持ちが先行して、とにかく頭に浮かんだままに言葉を紡ぐ。


「私は、真宮 藍と申します。五年前のニューヨークで、怪しい人に路地で絡まれていたところを久我さんに助けてもらったんです。あの時のお礼を、もう一度ちゃんと言いたくて」


 あなたと出会えたおかげで、またパティシエの道に進む勇気がもらえたんです。悪い記憶しかなかったアンジュでの仕事を好きだと言ってもらえて、心が救われたんです。

 しかし、その全てを伝える前に、彼の表情が一変した。

 まるで軽蔑するような冷たい視線、そして、眉を寄せた顔は明らかに記憶の中の王子様とはかけ離れていた。


「ホテルの従業員が、公私混同をするな。人肌恋しいなら、他の男に声をかけろ」


 ドンと固い鈍器で殴られたような衝撃が体に走った。

 今のは、本当にあの優しかった久我さんのセリフなの? 突き放す口調は氷の如く冷たくて、場の空気が凍りつく。


「馴れ馴れしく話しかけないでくれ。君に構っている暇はない」


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