冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
どうやら、長年の親交がある関係らしい。わざわざパリからなんて、すごい話だ。
「なぜ、クラブフロアに? 宿泊客の名簿には名前がなかったはずです。ここには、専用のカードキーがないと入れないでしょう?」
「私の実家が財閥なのは知ってるわよね? 角部屋に泊まってるお客さん、父と付き合いのある社長さんなの。クラブフロアのラウンジで飲みたいってお願いをしたら、快く貸してくれたわ」
瑠璃川 恵麻という名前らしい彼女と、一瞬だけ目が合った。
下から上まで動く視線に、品定めをされたのだと察する。そして、明らかな格下だと判断されたのも伝わってきた。
「地味な子。趣味が変わったの? 火遊びをしたいなら、私とラウンジで飲みましょうよ」
さすがに、ムッとくる。たしかに私はいかにも平凡な容姿だけど、初対面で失礼すぎない?
するとそのとき、久我さんが腰を抱く腕に力を入れた。ふたりの体が密着して、息の仕方を忘れる。
「悪いですが、その誘いには乗れません。今夜だけではなく、これからも……それと、彼女を侮辱しないでください。藍は俺の妻ですから」
「えっ!」