冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
言われるがまま、部屋の鍵を開けてドアノブをひねる。
いざ、入ろうとしたその瞬間、わずかにまつげを伏せた久我さんが、何かに気づいた様子で立ち止まった。
不思議に思って見上げたとき、流れるように腰を抱かれる。
「へっ!?」
無防備に間抜けな声が出ると同時に、背後から若い女性の声が届いた。
「椿。職場で女を抱く気? 相変わらず手が早いのね」
振り向いた先にいたのは、金に近い明るい茶髪を綺麗に巻いて、胸元が空いたセクシーなコーラルピンク色のドレスを着た女性だ。
ふわふわのウサギの毛のような素材で出来た黒い上着を羽織り、財布しか入らないサイズのショルダーバッグは有名なブランドものである。
アーモンド型の少しキツそうな二重の目に、小さな鼻と顎、世の男性を手玉に取る、小悪魔っぽい印象の美しい人だった。
呼び止められた久我さんは、先ほどまでと打って変わって微笑を浮かべた営業モードに入る。
「ああ、瑠璃川さん。お久しぶりです。誤解を招く言い方は控えてください。職場の女性に手を出したことはありませんよ」
「恵麻と呼んでって、言っているでしょう? 嘘つき。いつも美女に言い寄られているじゃない。せっかく椿が日本に帰ってくるって聞いたから、わざわざパリから会いに来たのよ」