佐藤さん家のふたりとわたしと。
「…はぁ」

「芽衣ちゃん、ため息ついてどうしたの?」

もうすぐホワイトデー、正志お兄ちゃんがお返しをくれるというので駅前のデパートでやってる祭事展に来た。

チョコレートも人もいっぱいで賑やかだった。

そんな中チョコレートを持ったまま、思わず吐き出た重めの息。ハッとしてすぐにチョコレートを元に戻した。

「ううん、ちょっと考え事してた」

「考え事?なんかあったの?」

「…ううん」

「どうしたの?」

どこの空気清浄機よりもよどんだ空気を一掃してくれる正志お兄ちゃんはいるだけで心が洗われる気がする。戻したチョコレートの隣にあったハートの赤い缶を手に取りながら聞いてみた。

「…正志お兄ちゃんは彼女いる?」

「うん、いるよ」

「え!?いるの!?本当に!?」

さらっと聞いたつもりだったけど、それ以上にさらっと返って来た答えに私が驚いてしまった。

「いるよ、もう2年になるかな」

「えーーーーーー、全然ッ気付かなかった!どこで知り合ったの?」

「高校の時の後輩だよ」

にこっと私に笑った。
毎年こうやってホワイトデーが近くなると一緒に買い物に来てたけど全然知らなかった。

いつもさりげなく彼女の分も買ってたのかな?それとも彼女の分は特別に用意してたのかな?さすがどんなこともスマートにこなしちゃうんだから!

「正志お兄ちゃんは彼女と何話すの?」

「何って…聞かれると困るなぁ。普通のことだと思うけど」

「普通ってなに??」

「えー、好きなものの話とか?」

好きなもの…大志の好きなものと言えば、ゲーム、音楽、漫画、お菓子…そんなの聞かなくも知ってるし。今更盛り上がる話なんてない、改めて聞いたらそれこそまた変な空気になる。

「芽衣ちゃん、彼氏出来たの?」

「えっ!?ううんっ、できてない!できてないよっ」

恥ずかしくて咄嗟に嘘をついた。

「正志お兄ちゃん!私これが欲しい!」

そのまますぐに話を変えるようにずっと手に持っていたハートの赤い缶を見せた。もうこれ以上深く聞かれるのはちょっと困ったから。

「お返しこれがいいな!」

「可愛いね、それ。じゃあ織華ちゃんたちもお返しそれにしようかな」

「うん!」

正志お兄ちゃんがその赤いハートの缶を3つ手にした。

私と結華お姉ちゃんと織華ねぇーちゃんの分。

やっぱり彼女のは特別なのかなって思った。それは聞きたかったけど、そしたらまた話が戻ってしまうと思って聞けなかった。
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