【短編】夢祭りの恋物語
 花火は無情にも百八回目があがる寸前であった。その事を知った美琴は、涙を流したまま司に向けて神の力を使ったのだ。眩い光が司を包み込み、元の世界へと肉体が戻ろうとしていた。

「美琴・・・・・・僕は、キミの事を絶対に忘れない。どんな事があっても、いつまでも・・・・・・。そして、いつか必ずもう一度会いに行くからね!」
「わたくしもです。絶対に司様の事は忘れません。ずっと待っていますから!」

 司は消えかかった手を伸ばし、美琴の手を掴もうとした。美琴もその手を掴む為にてを伸ばしたのだ。だが、二人の手が再び触れることはなかった。

 無情にも司の肉体は、神々の世界から消えていき元の世界へと戻って行ったのだ。そして────。


「司・・・・・・司、大丈夫か?」

 聞き覚えのある声に司の目が覚める。寝起きの為か頭が働いておらず、声の主が誰なのか気がつくのが遅れたのだ。

「・・・・・・と、父さん?どうしてここに?」
「どうしても何も、中山さんから連絡貰ったんだよ。司が帰ってこないって。それで探しに来たら、こんな所で寝てたのを見つけたんだ」
「寝てた・・・・・・? あれは夢、なのか? そうだ、祠、父さんここに祠が・・・・・・」
「何寝ぼけてるんだ。こんな所に祠なんてあるわけないだろ。とりあえず、無理させたのが悪かった。家でゆっくり休むといい」

 立ち上がった司が周囲を見渡したが、祠なんてどこにもなかったのだ。本当に・・・・・・ただの夢だったのか。ただ疲れて倒れてしまっただけなのか。

 頭の中を整理しながら、司は家でゆっくりすることにしたのだ。

 司はまず洗面所で顔を洗う事にした。冷たい水がまだ寝ぼけている司を完全に目覚めさせた。そして、ポケットにしまってあったハンカチで顔を拭こうとしたのだ。

 すると、ハンカチに茶色い何かが付着していたのに気がついたのだ。鼻を近づけると甘い香りがハンカチから漂っていた。

「これは・・・・・・チョコレート?」

 司は思い出したのだ。それはあの時美琴の口についたチョコレートを拭いた時に付着したもの。そしてもうひとつ・・・・・・左手の薬指には銀色の指輪がはめられていた。

 やはり夢ではなかったのだ。安心した司の口元がにやけたのであった。

 受験勉強の途中で箱から出した大切な指輪。司は一年前の出来事を思い出していた。そして、その指輪に誓いを立てたのだ。

 必ず・・・・・・もう一度美琴の元へ行くと。
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