【短編】夢祭りの恋物語
「司様、冷静にお聞き下さい。この花火は・・・・・・神々のお祭りが終わりを迎えるのを報せているのです。そして、お祭りが終わってしまうと・・・・・・人間の世界には二度と戻る事が出来なくなってしまいます」
「え・・・・・・、それって、つまり、お祭りが終わるとこの世界に残るしかなくなるって事?」
「はい、しかし・・・・・・司様は人間、その為、神として生まれ変わってしまうのです。その姿も記憶も全て失い・・・・・・新しい神としてこの世界に誕生するのです」

 美琴から伝えられた絶望の言葉。残ったとしても、美琴の事は忘れてしまい、戻れば美琴に会う事が簡単には出来なくなる。司は幸せの絶頂から奈落に突き落とされその場に泣き崩れたのだ。

「司様・・・・・・。わたくしは司様を失いたくありません。ですから・・・・・・」

 美琴は懐からひとつの箱を取り出したのだ。そして、その箱を開け中身を司に見せる。中に収められていたのは二つの銀色に輝く指輪であった。

「司様・・・・・・これを・・・・・・。この指輪は、わたくしの大切な物。これをわたくしだと思って、大事にして下さいね。約束・・・・・・ですよ?」
「美琴・・・・・・。これを僕に? でも、僕は美琴と離れたくはないよ」
「司様、お願いです。このままでは、わたくしの事も、そしてこの幸せな思い出も全て失ってしまいます。ですから、わたくしの幸せな時間、大切な司様との時間を失わせないで下さい」

 美琴は大粒の涙を流し司を説得していた。その涙は別れの涙ではない。幸せな時間を守るための涙である。美琴も本当は司とずっと一緒にいたかったのだ。

 だがそれは、この世界のルールが認めてくれなかった。だからこそ、幸せな時間だけは守ろうとしたのである。そして、美琴は司の左手薬指に指輪をはめたのだ。

「分かったよ・・・・・・美琴。僕は元の世界に帰るよ。僕にこんな幸せな時間をくれてありがとう」
「司様・・・・・・。ごめんなさい、本当にごめんなさい。わたくしアナタと出会えて、本当に幸せでした」
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